現実を切りとり、いくつかの現実の断片を繋ぎ合わすことで虚構世界が現れる。日常の何かでありながら、実感はなく、表層的なように見えて断片的でもなく、あらゆる意味で重みがない非現実が立ち現れる。それは写真と現実の不確かな関係を示していて浮遊感があり現実の重みから解放された世界になる。1997年ごろより、コンピュータが身近なツールとなり、写真が記録メディアとは別の方向性を持ち始めたと意識したことが、<写真>の制作を始めたきっかけとなった。時系列の繋がりで発信される映像ではなく、切り取られた平面上で自由な思考を巡らせることのできる奥行き空間、イリュージョンを作り出すことに興味がある。 立ち止まって向き合うが現実なのか幻想なのか、複雑な感情を抱くような違和感や、美的で示唆する何かがある、古典絵画を意識下におく。ピサネロの黒い背景に、浮かぶ花や静止した動物の細密な表現。法華寺の阿弥陀三尊、童子図の3つの変形画面に、共通して舞う花びらの同時空間感。来迎図から引き継がれる大和絵の雲による場面構成、武蔵野図に描かれる形式的な自然主義と月の寓話のような関係…パティニールの、世界を見尽くすような風景画など。それらの絵画の中には、身近にただ在るものなのに、まるで何かをやどっているような象徴性を際立たせて神話作用を感じさせる。写真がなかった時代の絵画たちが漂わせている世界観に強く惹かれる。

1997年に写真を<イメージ>として制作を始めて20数年が経った。アートワークを始めた1980年代以降は絵画やインスタレーション作品を制作。1995年に、ロンドンにあるRCAという大学院で再び学生となり、ロンドンの生活で社会や文化の違いを実感することになる。日常の中で感じたことを写真スケッチとして撮りためていく。ロンドンで始めたシルクスクリーン技法と,当時最大 34″ × 44″ (864 × 1118 mm) のインクジェットプリントができるIRIS printerを使い、コンピュータを使った写真の制作を始めた。欧米ではデジタルプリントがアートのカテゴリーとして認知されていた。



1997 L「Bed-three colour」「Bed-Two colour」
150×115(cm)シルクスクリーン

協力: 資生堂. Canon.